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ブルー・オーシャン戦略について|コラム#49

  • 資金繰り・事業計画

2025.12.19

こんにちは、税理士の工藤俊悦です。みなさんは、ブルー・オーシャンという言葉をご存じでしょうか?ブルー・オーシャンは、W・チャン・キム教授及びレネ・モボルニュ教授の著書『ブルー・オーシャン戦略』で述べられている経営戦略であり新しいマーケット(市場)の定義でもあります。

マーケットのニーズに敏感に!

企業の経営者の関心は、自社の経営において自社の商品やサービスを開発し、『誰』にどのような商品やサービスを販売していくかに尽きます。この際に必要な考え方として、自社の商品やサービスは『誰』に受け入れられるかというアプローチです。そしてこの『誰』とは一般的にマーケットを指します。商品やサービスの開発に際し、マーケットのニーズというのはとても重要で、企業は常にマーケットのニーズを反映した商品やサービスの開発に取り組みます。

セリング(販売)が主流だった経営の考え方は、近年はマーケットのニーズを重視する経営の考え方にシフトしました。なぜならマーケットのニーズを無視し、自社が良いと思ったものを商品化し販売したとしても、それはマーケットのニーズに反しているため、結果売れないという結論になりがちだからです。よって近年の経営戦略を行う上での経営者の関心は、マーケットのニーズに注がれるようになっていくのです。

さて、このマーケットには常に競争がつきまといます。マーケットのニーズに対して開発された商品やサービスが提供されたとしても、既にマーケットに同様の商品やサービスが存在している場合は、マーケットは過当競争の状況になっています。

ブルー・オーシャンとレッド・オーシャン

ブルー・オーシャン戦略においては、この過当競争になっているマーケットを『レッド・オーシャン(赤い海)』と呼びブルー・オーシャンとの対比としてたびたび持ち出されます。
一方、ブルー・オーシャン戦略におけるブルー・オーシャンにおいては、過当競争になっているマーケットから脱却し、競争の無い理想的な未開発の地を見つけ、そのマーケットで勝負することを定義します。この未開発の地こそが『ブルー・オーシャン(青い海)』であり、マーケットにおいて顕在化されたニーズを掘り下げることはやめ、潜在的なニーズに対する商品やサービスの開発を主として行いマーケットに投入していきます。

ブルー・オーシャンを狙った任天堂「wii」

ブルー・オーシャン戦略によって成功したビジネスの例は沢山ありますが、その中でも私が好きな企業の一例をあげたいと思います。
それは、任天堂におけるブルー・オーシャン戦略における商品の開発です。
任天堂は、言わずと知れた京都の老舗企業です。娯楽に関する事業を展開しており、中でも家庭用ゲーム機やゲームソフトの開発で成功を収めてきました。私も小さいころから沢山お世話になってきました。代表的なゲーム機としてファミリーコンピュータ(通称「ファミコン」)が有名です。また、1985年に発表されたゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』は世界的な大ヒットとなりました。
しかし、家庭用ゲーム機ブームの到来によりマーケットはレッド・オーシャンになっていきます。それは、任天堂だけでなく、多くの企業がゲーム機産業に参入したことにより、ゲーム機本体もゲームソフトもマーケットにおいて競争が激化していくことになったからです。
それでも任天堂は、顧客のニーズを捉えて発表されるゲーム機本体もゲームソフトも素晴らしいものが多く、マーケットのニーズを捉えて常に最先端なゲーム機の開発やゲームソフトの開発を行ってきました。

しかし、任天堂はSonyが発表した「プレーステーション」シリーズが発売されて以降、高性能グラフィックなゲーム機競争に巻き込まれていきゲーム機市場においては遅れをとっていきます。Sonyのプレーステーションシリーズでは、壮大なグラフィックにおける画質の向上を目指しゲームの開発がなされていきます。これは顧客が「壮大な世界観でゲームができる」「ゲームとは思えないような画質でゲームができる」というニーズをとらえて開発を続けた結果です。

一方、遅れをとった任天堂の戦略は、ゲームの開発段階においてブルー・オーシャン戦略を取り入れます。そこで、これまでにゲームの概念には無かった「運動をしながら遊べるゲーム機」の開発に取り組みました。そして誕生したのが任天堂「wii」です。独自のコントローラを採用することで、ゲーム機には無かったゲームを行う人間側のアクション(運動)でゲーム機を動かすというものです。これは、ゲーム機は子供が行うものという概念を覆し顧客のターゲット層を広げました。運動ができるゲーム機は、幅広い顧客層を生み出し、孫と子供が一緒に運動をしながらゲームをする、成人女性がダイエットを楽しく行いながらゲームをするという新しいニーズも生み出しました。もともとマーケットにないものを生み出した任天堂は、その分野で勝ち組になっていきます。

家から外に飛びだした「Switch」

また、ブルー・オーシャン戦略を応用したゲーム開発は他にもあります。任天堂「switch」は、家の中からゲーム機を持ち出すことが可能となったゲーム機です。ゲーム本来家で行うという固定概念を打ち破り、外で友達と対戦ができる、どこでもゲームができるという新しい潜在的なニーズを掘り起こし顧客を獲得しています。
さらに最近ではその概念を発展させて、歩きながら・散歩をしながらゲームができる「ポケモンGO」などもゲームの開発も行っています。ゲームをするために「外にでる」という発想は、従来の市場のニーズとはかけ離れていたものです。しかし、「運動をしたい」、「健康でいたい」「家の中でのゲームは不健康だと思う」というニーズと楽しくゲームをやりたいというニーズを掛け合わせて、外に行かないとゲームができないというゲームの開発により新しい顧客を生み出すことに成功しました。
このように、任天堂はブルー・オーシャン戦略の得意な企業として位置付けることができます。
さて、任天堂の代表例をあげましたが、次にブルー・オーシャン戦略のメリットとデメリットを上げたいと思います。

ブルー・オーシャンの戦略の活用を行うにあたって

ブルー・オーシャン戦略におけるメリットは、

①マーケットを独占することが可能となりやすい。
②少ないコストでより大きな効果がうまれやすい。
③何より企業の利益を早期に獲得しやすい。

という点をあげることができます。①のマーケットを独占することが可能となりやすいは、現在マーケットに無いもの(潜在的にはあるものの顕在化されていないニーズ)に対し商品やサービスの提供がなされるため、うまくマーケットの潜在化しているニーズを刺激し顕在化することが可能であれば、一気にマーケットを独占することが可能となります。また、②については、マーケットにない商品やサービスであるためお試し的に商品開発をすることも可能であり、少ないコストで得られる効果が大きく出るという利点が見込めます。さらに、③については、なにより競争他社がいないマーケットで勝負をするため投資から回収までが早期になりやすいという利点があります。

いっぽう、デメリットもあります。それは、

④多額の利益を獲得することが難しい。
⑤他社に模倣、追従されやすい。
⑥潜在的ニーズを読み間違うことも多い。

というデメリットがあります。それは、すでにあるマーケットとは違い、潜在的なニーズを誘発させる戦略なため、徐々に利益を獲得していく戦略になりがちで、一気に大きな利益を獲得することが難しくなりがちです。また、参入障壁が低い商品やサービスであると、新たなマーケット獲得に動き出す他社に少ないコストで模倣される可能性もあり、また追従されるころでマーケットを独占される可能性も高くなります。
さらに、そもそもマーケットに無い商品やサービスであるため、潜在的ニーズを読み違えると投入された商品やサービスが売れないということにもなりがちです。そもそも「なぜマーケットにはそのような商品やサービスはないのか」という視点からきちんとアイディアと見合う売上になるのかの試算が不可欠となります。

新しい経営戦略の1つとして

とはいえブルー・オーシャン戦略は、業界の枠組みにとらわれず顧客の価値の向上に寄与する戦略となります。そして顧客の価値を見直して、新しい価値曲線を描くために

  • 業界の常識として商品やサービスに備わっている要素のうちとり取り除くべきものは何か?
  • 業界標準と比べて思い切り減らすべき要因は何か?
  • 業界標準と比べて大胆に増やすべき要因は何か?
  • 業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か?

という4つの問いを用い、代替業種や代替産業などからヒントを得ることで、顧客に提供する価値の内容を改め、これまでにない経験とコストを押し下げることが可能となるのがブルー・オーシャン戦略の特性となります。

皆さんが経営する企業でも過当競争になっているマーケット(レッド・オーシャン)のニーズに目を向けるのではなく、潜在的な顧客のニーズを掘り下げ、競争の無い理想的な未開発のマーケット(ブルー・オーシャン)の獲得に動くことも新しい経営戦略としての試みとして現状の経営の打開につながるかもしれません。

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工藤 俊悦

税理士・行政書士

工藤 俊悦

財務サポートを通じて企業の前向きな経営を応援!税理士・行政書士として、日々の税務・会計から経営改善、事業承継、各種許認可まで、企業経営を幅広くサポートします。