よいみせ│株式会社永勘染工場

2022年11月28日

南染師町にたった1軒残る、染工場



仙台市若林区南染師町(みなみそめしまち)。その文字通り、かつては染師たちが暮らし、染め物をつくっていた町です。
この南染師町にたった1軒、染め物屋として今も商いを続けるのが、「永勘染工場」。創業は明治20年(1887年)。意外なことに、創業当時は現在の芭蕉の辻の近くで商売をしていたそうです。代表取締役の永野仁輝さんは「当時、藤崎さんが呉服商で、その仕事をしていた関係であの場所に暖簾を構えていたそうですが、戦災で焼けてしまったので、南染師町に移動してきたんですよ」と教えてくれました。

「永勘染工場」がつくっているのは、地域のシンボルとなる神社の大幟や幕、祭りを彩る半纏、飲食店の顔となる暖簾といった品々。昔ながらの伝統的な染めの工法である本染めにこだわっています。永野さんは「本染めのよさは生地の中までしっかり浸透することなんです。たとえば、暖簾はお店の外側からも内側からも見られるものですよね。裏側もしっかり染まっているものを暖簾としてかけたい、というお店さんなどからご注文をいただいております」と話します。



永野さんが20代で「永勘染工場」に入ったとき、会社はまだ家族経営。永野さんの入社に合わせ、かつて染めの仕事をしていた職人さんに戻ってきてもらい、永野さんは数をこなし、少しずつの失敗も重ねながら技術力を高めていきました。そのうちに社員を雇い入れるようになり、今では30代の染師が現場で腕を振るっています。



ところで、「永勘染工場」の店頭を訪ねると、有名アウトドアブランドとのコラボレーショで生まれた、なんともスタイリッシュな前掛けに目を奪われます。「OEMという形でもう何年かやらせてもらっています。前掛けは、退職記念や還暦記念などにも人気で、1枚からつくることもできるんです。持ち込みのデザインがあれば、ぜひ持ってきていただいて、対面、メールのやりとりなどでつくっていきます」。
驚くことに、1万円くらいから製作が可能だそうなので、オリジナルのプレゼントを考えている人にはぴったりの選択肢といえるでしょう。永野さんは「当然、数が多ければ1枚あたりの単価は下がります。予算に合わせてできることをご提案していきますので、相談してほしいですね」と。


本染めのサイクリングキャップ、誕生

また、2022年には、日本屈指のブランド木綿である知多木綿を使用し、本染めでデザインを施したサイクリングキャップ「染 CYCLING CAP」をリリース。ロードバイクやマウンテンバイクといった自転車に乗るサイクリストがヘルメットの下にかぶるキャップで、吸水性と通気性に優れたアイテムです。永野さんは「これは、チャレンジ補助金を利用して作りました。手ぬぐいの生地を使って軽くて、持ち運びもいい。染めはうちで、デザインはデザイン事務所に依頼しました。その事務所のデザイナーさんが自転車好きで、私もマウンテンバイクに乗るものですから、『いいね、いいね』と話が進んでいきまして。縫製工場も宮城県内で見つけて、商品化することができました。現在は弊社の店舗のみでの販売ですが、今後は販売先を考えていきます」と。

100年を超える老舗を担っていく永野さんに、今後の目標を聞きました。
「この南染師町で、染物屋として1社だけ残っている意味をしっかり考え、絶やさずに残していきたいですね。そのためには、皆さんに普段から身近に使っていただける製品を作っていくのが、課題かなと思います。今後は、ブラウスとかシャツとか、数が少なくても縫製に対応できるところとかあれば、そういう横展開も面白いかもしれませんね」。




南染師町の染工場は、これからの100年も挑戦し続け、多くのお客さまに笑顔を届けていくことでしょう。

株式会社永勘染工場

所在地:〒984-0814 仙台市若林区南染師町13
営業時間:9:00-17:30
定休日:土・日・祝日
TEL:022-223-7054
URL:https://nagakan.jp/