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森と蜂と|支援事例紹介#9

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  • 新商品開発・新事業展開

2024.01.15

仙台市秋保に養蜂場を設け、ミツバチの飼育から蜂蜜の生産・販売まで手がけている「森と蜂と」。代表の山口将吾さんが初代で養蜂を始めてから約10年、妻の梢さんと共により良い蜂蜜を目指し、ひたむきに蜂や自然と向き合ってきました。手間暇かけて大切に育てている蜂蜜をもっと多くの人に知ってもらおうと、山口さんご夫妻はオーエンに相談。それまで使っていた屋号やデザインを一新し、蜂蜜の直売所も開設することになりました。

オーエン活用のポイント

  1. ブランドネームやロゴ、パッケージ等のリブランディング
  2. マーケティングや経営に関するアドバイス
  3. 直売所の開設や運営における伴走支援

 01  どんな事業を行っていますか?

仙台市秋保にて、夫婦二人で養蜂業を営んでいます。私たちにとって蜂は、家族のような存在。その蜂が健康に過ごせるよう、蜂にとって快適な環境を整えることが私たちの仕事です。蜂や自然に負荷をかけないオーガニックでの飼育をはじめ、巣箱の手作りや日々の温度管理など、蜂とつながっている全てのものを大切にしながら蜂蜜を作っています。

蜂蜜の採取地は、秋保と仙台の里山。その場所によって、採取できる蜂蜜の種類が異なります。たとえば採蜜シーズンの最初に採れる桜の蜂蜜「初咲(はつざき)」は、秋保の里山や仙台の太白山・青葉山が蜜源で、桜やバラのような淡い香りと上品な甘味が楽しめます。また、秋保に多い藤の花から採れる蜂蜜が「山藤(やまふじ)」。濃厚な甘味の中に、ジャスミンのような香りが広がる蜂蜜です。そして、秋保で一番標高の高い二口渓谷で採蜜しているのが「野茉莉(えごのき)」。手付かずの自然が残っている山奥で採れるこの蜂蜜は、花の香りの奥にハーブやスパイスのような風味が感じられます。

このように場所や花の種類を細かく分けて採蜜する養蜂家は、全国的に見ても希少です。蜂が巣箱に帰ってくる時の匂いや花の香りなどを五感で捉えながら、20種類以上の蜂蜜を採り分けています。

健やかに育てた蜂たちが集めてくる花の蜜は、非加熱・無添加で瓶詰めされる。

 02  オーエンを利用したきっかけは?

蜂蜜を販売するようになって間もない2014年、仙台市産業振興事業団の職員・芳賀和香子さんが私たちの商品を見つけてくださって、バイヤーさんとのマッチング交流会にお声がけいただいたんです。そのご縁がきっかけで、仙台三越の催事などにも出店させていただけるようになりました。

しかしながら当時は、ブランディングやマーケティングのことをきちんと勉強しないまま、一生懸命作った蜂蜜をとにかく売るということしかできていませんでした。今後どのように売っていけばいいのか、この素晴らしい蜂蜜をより多くの人に知ってもらうためには、どうすればいいのだろうか。そんな悩みを事業団が運営する「オーエン」に相談したところ、マーケティングプロデューサーの大志田典明さんをご紹介いただきました。

「森と蜂と」の山口将吾さんと梢さん。種類豊富な蜂蜜が並ぶ直売所にてインタビュー。

 03  どのような支援を受けましたか?

オーエンの大志田さんと出会った頃は、私たちのブランドをイメージするロゴやパッケージがありませんでした。蜂蜜作りへのこだわりや想いなどを言語化・可視化することなく、ただひたすら走っているような状態だったんです。それを知った大志田さんが、「これほどこだわって品質の高い蜂蜜を作っているんですから、それがきちんと伝わるラベルやパッケージを作りましょう」と。オーエンの『新商品/新サービス開発支援』に採択され、リブランディングのための専門家チームを組んでいただきました。

まずは、屋号(ブランドネーム)の変更です。それまで使っていた屋号はありましたが、新たに「森と蜂と」という名前をコピーライターの工藤拓也さんが考えてくださり、その名を含めたロゴやパッケージをグラフィックデザイナーの梅木駿佑さんに作っていただきました。また、花の種類や採蜜地を分けているのが「森と蜂と」の強みなので、それが伝わるような商品ラベルやパンフレットも制作。工藤さんも梅木さんも本当にたくさんの話を聞いてくださった上で、私たちの理想や個性を形にしてくれました。
※工藤さん、梅木さんはいずれも新商品/新サービス開発支援で委託した外部の専門家です

さらに大志田さんからは、直売所の開設についてもアドバイスをいただきました。当時は通信販売・イベント・卸しの3つで蜂蜜を売っていて、直売所をつくるには土地もない、資金も足りないと思っていたんです。しかし大志田さんから「お金をかけて大きく始めるより、小さくてもいいから堅実にやっていったほうがいいよ」と教えていただいて。むしろそのほうが後から軌道修正できるからと、最初のハードルを下げてくれました。そのおかげで背伸びをすることなく、DIYも取り入れた小さな直売所を始めることに。『仙台市中小企業チャレンジ補助金』も活用し、2023年の春に念願の直売所をオープンさせることができました。

秋保の自然を感じられる直売所。蜂蜜を気軽に味わってもらえるよう、ソフトクリームの販売も始めた。

 04  実際に専門家から支援を受けた感想は?

たくさんのアドバイスをくださった大志田さんは、もはや「人生の師匠」のような存在。物事の見方や考え方がとても深く、いつも事業の1歩先2歩先を見据えながら、私たちに足りない部分を補うためのヒントを与えてくださるんです。そして大志田さんをはじめ、工藤さんと梅木さんも私たちのものすごい熱量を受け止めてくださり、それを形にしてくれました。大変ありがたく思っております。

秋保に直売所をオープンしてからは、多くのお客様に喜んでいただけていることが、とても嬉しいです。お店にいらしたお客様に「このすぐ近くで、蜂蜜が採れているんですよ」とご紹介することもできますし、観光で二口渓谷に行って来た方が蜂蜜のラベルを見て「あそこで採れた蜂蜜なんですね」と言ってくださることも。蜂蜜ソフトクリームを召し上がった方が「これまで食べていた蜂蜜と全然違う!」とおっしゃって、帰りに蜂蜜を買ってくださることもあります。こうして蜂蜜や自然を体験する場所ができたことで、より五感でおいしさを味わってもらえるようになり、売上・利益の向上にもつながりました。

さらに2023年8月には、日本はちみつマイスター協会主催「第6回ハニー・オブ・ザ・イヤー」の国産部門で最優秀賞と来場者特別賞の二冠を達成。同年11月には仙台市産業振興事業団主催の「第10回新東北みやげコンテスト」で優秀賞を獲得することができました。これらの受賞も大志田さんに出会わなかったら実現していなかったでしょうし、コンテストに出ようとすら思わなかったかもしれません。

「最も美味しいはちみつ」を選ぶコンテストで、「森と蜂と」は初参加ながら二冠に輝いた。

 05  今後、どのようにオーエンを利用していきたいですか?

2023年に新しいパッケージや直売所ができ、コンテスト受賞によって認知度も上がりました。それを携えて今後は「森と蜂と」をどのように育てていけばいいのか、また改めてオーエンにご相談できればと思っています。蜂蜜と他の食材を組み合わせた新感覚の商品も作っていきたいですし、直売所でのイベントや養蜂を見学できる複合施設なども実現したいと考えていますので、これからもご支援いただければ幸いです。

私たちのような農家や小規模事業者だけでは、どうしてもできることが限られてしまいます。それでも一生懸命に誠実に頑張っていれば、オーエンの専門家の皆さんが助けてくれますし、みんなで考えたらこれほど素晴らしいものができるんだと実感しました。もし仙台・宮城で質の良いコンテンツをお持ちの方がいらしたら、ぜひオーエンの利用をおすすめしたいです。経営やクリエイティブの専門家と生産者が力を合わせることで、事業においても世の中にとっても良いものが生まれると感じています。

少しずつDIYを重ねている直売所だからこそ、愛着も未来の展望も膨らむ場所に。

大志田 典明

マーケティングプロデューサー
大志田 典明

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支援担当者からコメント

初めてお会いしてテイスティングした時、とても丁寧で高品位な味わいに感激しました。幾度かのヒアリングを通じて、ご夫妻の蜂蜜は蜜源(花)のバリエーションにとどまらず、その採取地・時期まで多彩で、中には菩提樹や山栗など希少蜜もあって、その全てが仙台市内の森林・渓谷に自生する草木産であることにも驚きました。そして、養蜂は畜産業。良質の蜜は健康な蜂なればこそとして、常に蜂のコンディションを五感で聴いているのです。
これだけ基本価値がしっかりしていれば、単に容量の大小で値付けするのではなく、例えば青葉山採取・百合木2023ヴィンテージなど、産地・品種で格付けするワインのようなラインアップとして付加価値化し、その主役である仙台の“森”とご夫妻の“蜂”を主役にブランディングを可視化するだけ。
シンプルながら手間の多い工程を、一歩づつ進めたお二人に日本一の拍手です。

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今回ご紹介した企業

森と蜂と

自然豊かな仙台・秋保でミツバチを育て、国内では希少な非加熱の純粋蜂蜜を自家生産。オーガニックの養蜂を徹底し、季節の花々の蜜を採取している。2023年には秋保温泉郷に直売所をオープン。

 

インタビュー・ライティング/三日月エディット 野原 巳香
撮影/渡邉 樹恵子