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株式会社 瀬戸屋|支援事例紹介#14

  • 新商品開発・新事業展開
  • IT導入・利活用

2025.08.22


宮城の酒器で宮城の日本酒を楽しめる「ぐい呑パスポート」は、株式会社瀬戸屋が手がける体験イベント。2025年の第5回から日本酒チケットをデジタル化したことで、利用者と運営側の利便性が向上しました。このデジタルチケット化をサポートしたのが、仙台市産業振興事業団が運営するオーエンです。デジタル化に係る業務フローの見直しからシステムの設計・運用まで、ITの専門家による伴走支援についてご紹介します。

オーエン活用のポイント

  1. 事業のオペレーションを整理し、問題点の抽出や解決を支援
  2. 紙チケットのデジタル化に向けたITサービスの選定
  3. システム構築やコンテンツ制作のサポート

 01  どんな事業を行っていますか?

1946年に創業した株式会社瀬戸屋は、陶磁器の卸問屋です。全国の有名産地の食器を取り扱っており、百貨店や小売店、ホテルやレストランなどの飲食店に卸売販売しています。

陶磁器の卸売業を柱とする一方で、弊社の経営理念である「食住生活文化の向上」を目指すプロジェクトにも力を注いできました。近年では、東北の伝統窯や職人技の継承・発展をコンセプトにしたオリジナルブランド「彩地器 Saijiki Tohoku」、作り手も素材もオール東北の土産品「いろどりみやげ」をプロデュース。さらに宮城ならではのお土産をつくりたい、地域の活性化に寄与したいという思いから、2020年に「ぐい呑パスポート」をスタートさせました。

ぐい呑パスポートとは、毎年3〜5カ月の長期間で開催している体験イベント。宮城在住の作家さんがつくった器と日本酒チケットを買っていただくと、仙台市内の加盟飲食店でお得に宮城の地酒が楽しめます。第1回仙台市交流人口ビジネスコンテスト アイデア部門優秀賞(主催:仙台市)、第10回新東北みやげコンテスト地域性特別賞(主催:仙台市産業振興事業団)を受賞することもできました。

お話を伺ったのは、株式会社 瀬戸屋の取締役である金野知哉さん。

 02  オーエンを利用したきっかけは?

ぐい呑パスポートの開催を重ねるにつれて、いくつかの問題点が見えてきました。その原因となっていたのが、紙の日本酒チケットを使用していたこと。紙チケットは紛失の心配や回収・保管の煩雑さがあるうえ、チケットが無くなると正確な利用数がわからなくなってしまいます。どの店舗でどれだけ日本酒が消費されたのか把握できず、飲食店への日本酒補充の業務にも大きな負担がかかっていたのです。また紙チケットでは顧客情報が収集できないため、利用者への情報発信やマーケティングを行うのも困難でした。

こうした問題を解決するために考えたのが、日本酒チケットのデジタル化です。オーエンを運営する仙台市産業振興事業団には、これまでも補助金申請や販路開拓などでお世話になっていた経緯があり、ぐい呑みパスポートのデジタルチケット化についても相談。オーエンのビジネス開発ディレクターである木村俊一さん(ITコーディネータ・上級ウェブ解析士)を中心に、ご支援いただくことになりました。

購入したぐい呑を持って加盟飲食店へ行くと、日本酒チケットが使える仕組み

 03  どのような支援を受けましたか?

デジタルチケット化にあたって、自社システムの開発も検討してみましたが、現段階ではコスト的に難しいことがわかりました。そこで木村さんから提案していただいたのが、LINE公式アカウントとLINEミニアプリ「Lメンバーズカード」(以下、Lメンバーズ)の活用です。

2025年5月に第5回ぐい呑パスポートのキックオフイベントがあったので、そこでのリリースに間に合うように、システム構築やコンテンツ作りを進めていきました。Lメンバーズは既存のパッケージシステムなので、カスタマイズに限界はありましたが、できるだけ使いやすいように調整。デモ版の検証も木村さんがしてくださって、改善策などのアドバイスもいただきました。

このLメンバーズの導入によって、LINEアプリでデジタルチケットの購入・登録が可能となり、加盟飲食店でQRコードをスキャンするだけで、日本酒チケットが利用できるようになりました。店舗ごとのチケット利用数や日本酒の残量もリアルタイムでわかるため、日本酒の補充が必要なタイミングで自動的に弊社から配送できます。飲食店側もチケットの管理や日本酒補充の電話連絡をしなくて済み、これまでの手間が軽減されました。

またLメンバーズにはイベント予約機能が付いているため、これまでも行っていた日本酒講座などの予約に使っていく予定です。さらにECサイトやサブスクの機能もあるので、今後の展開として活用したいと考えています。

イベントや店舗にぐい呑を持ち運びやすいよう、巾着付きの商品に。

 04  実際に専門家から支援を受けた感想は?

今回のデジタルチケット化は、専門家のサポートがあったからこそ、実現できたことです。もともとLメンバーズはデジタル会員証ミニアプリで、デジタルチケット専用の仕様ではないため、数々の調整が必要でした。サービス事業者やコンテンツ制作事業者との打ち合わせにも木村さんが同席してくださり、私だけでは堂々巡りになりそうな話もうまくまとめていただいたので、とてもありがたかったです。

さらにシステム設計にあたってアドバイスをいただいたのが、利用者・加盟飲食店・瀬戸屋の三者すべてが便利に使えるバランスを重視すること。そのための試行錯誤が大変ではありましたが、結果的にシンプルで使いやすいシステムに仕上げることができました。

瀬戸屋本社のほか、加盟飲食店、藤崎大町館、ハンズ仙台店などでも、ぐい呑を購入できる。

 05  今後、どのようにオーエンを利用していきたいですか?

もともとぐい呑パスポートは、日本酒を知るきっかけや飲食店に行くきっかけづくりをコンセプトに始まったものです。関連イベントに参加してくれた若者から「日本酒ってこんなに美味しいんだ」という声も聞くので、日本酒を知る機会が少ない若者に興味を持ってもらう手段としても、ぐい呑パスポートやデジタル化は有効だと思っています。日本酒好きの若者は地域貢献への意欲も強いように感じているので、そうした人たちとの連携やコミュニティづくりを通じて、宮城の日本酒文化の発展や地域活性化にもつなげていきたいと考えています。

この日本酒を軸とした縦方向の事業展開に加え、ぐい呑みパスポートの仕組みを生かした横展開として、日本酒以外のジャンルも企画進行中です。これらの取り組みは地元の飲食店が盛り上がることが重要で、それが瀬戸屋の食器販売にもつながっていきます。今後も地域に寄り添った事業で食住生活文化の向上を目指しますので、また困ったことがあればオーエンを利用させていただきたいです。自分たちだけで考えるよりも、専門家や第三者の視点から事業を判断していただけることは、圧倒的に有益だと感じています。

デジタル化によって、顧客データの収集も可能に。マーケティングやサービス向上に活用したいと金野さんは話す。

支援担当者からコメント

ぐい呑パスポートのデジタル化は、単なる紙からデジタルへの置き換えではなく、「利用者・加盟店・運営側の三者がそれぞれ便利になる仕組み」を実現することが最大のポイントでした。
瀬戸屋の金野様は非常に精力的に取り組み、ご自身でもシステムを試行錯誤されていましたが、その推進力があるからこそ、大きなトラブルを避けるため、課題やリスクもご指摘しながらサポートさせていただきました。
また、システム選定やベンダーとのやり取りは時間も労力もかかるため、今回のようにその部分で専門家と連携していただけると、スムーズに進められると考えています。
結果として、ぐい呑パスポートは無事にスタートでき、日本酒文化の発信と地域飲食店の活性化につながることを嬉しく思います。
今後の横展開やデータ活用による発展も非常に楽しみです!

ITコーディネータ・上級ウェブ解析士/木村俊一

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今回ご紹介した企業


株式会社瀬戸屋

1946年に仙台にて創業。陶磁器の卸問屋として百貨店や小売店への卸売販売を行うほか、うつわを通じた地域振興やオリジナルの商品開発にも取り組む。本社3階のショールームでは、一般客の購入も可能。

瀬戸屋HP ぐい吞パスポートwebサイト ECサイト

インタビュー・ライティング/三日月エディット 野原 巳香
撮影/渡邉 樹恵子